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本の特送便 梅書房 > 「池の水」抜くのは誰のため? 暴走する生き物愛
978-4-10-610879-2 「池の水」抜くのは誰のため? 暴走する生き物愛
「池の水」抜くのは誰のため? 暴走する生き物愛
¥836   在庫有り
新潮新書 879

小坪遊/著

新潮社

2020年10月

新書・選書/教養/新潮新書


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【内容】

「池の外来種をやっつけろ」「カブトムシの森を再生する」「鳥のヒナを保護したい」――その善意は、悲劇の始まりかもしれない。

人間の自分勝手な愛が暴走することで、より多くの生き物が死滅に追い込まれ、地域の生態系が脅かされる。さらに恐ろしいのは、悪質マニアや自称プロの暗躍だ。知られざる“生き物事件”の現場に出向いて徹底取材。人気テレビ番組や報道の盲点にも切り込む。


【目次】

はじめに――生き物ぐせの悪い人


第1章 「元気でね」放った先は深い闇

 カブトムシで炎上した市議
 地域の「宝」を壊す恐れ
 意外な救世主現る
 復興の名の下に
 関東からもタネを
 環境再生が環境破壊に?
 死滅放流
 弱った子ガメを海へ
 コイを放してはダメな理由
 国連の「生物多様性条約」
 交雑にもいろいろありまして
 イトヨの奇跡
 「いいカエル」を駆除する時
 放流は一人ではできない


第2章 生き物ととるべきディスタンス

 ヒグマを殺したのは誰か
 報道陣から学習した?
 悲しきおねだりギツネ
 餌やりがゆがめる生態系
 シカが減らすチョウ、魚
 専門家が恐れていること
 タンチョウ給餌プロジェクト
 「ムクドリが倒れて動かないよ」
 助けたつもりが悲劇のはじまり
 環境省の「基本的な指針」
 片思いで見守ろう


第3章 「池の水」は何回も抜こう

 メディアが伝えるストーリー
 「ジビエ拡大、官邸主導で」
 いつイノシシを捕るべきか
 外来種駆除を売りにする番組 
 「かいぼり」とは何か
 「池の水」への疑問と論点
 文春砲にも誤射がある
 ネコは激しく燃える
 文春記事への反論
 報道を学びのきっかけに
 飼育失敗=悪いこと?


第4章 ダークサイドに堕ちた人たち

 いい画えを撮るためなら……
 悪質鳥パパラッチ列伝
 住所をさらす人、すみかを荒らす人
 名物記者の「いいね!」な写真
 #higumaでインスタ映え
 小さな池で起きた大事件
 誰がブラックバスを放ったか
 一部の悪質なバサーとの摩擦
 ネコバス問題
 放置された取材申請
 送られてきた防犯カメラ
 図鑑執筆者による犯罪
 「会社は関係ありません」
 「自宅で白バック撮影をしたかった」
 逮捕の裏に地元の連係プレー


第5章 悪事を取り締まる難しさ

 「ヤフオクもいいかげん動いてくれ」
 メダカの詰め合わせ
 大手4社に聞いてみた
 ドラゴンをSNSで買う
 パパラッチを止めろ
 マナー違反の写真を断る「野鳥の会」
 罰金、懲役は有効か
 法律だけでは穴だらけ
 あなたも「うっかり犯罪」者に


第6章 あれもダメ、これもダメを越えて

 アカミミガメに「日光浴わな」
 「都心ではザリガニとコイくらいしか」
 興福寺の新しい「放生会」
 地味な「かいぼり」を選んだ上尾市
 「奄美」と「小笠原」は比べられない
 オオタカを規制対象から外す
 愛を人にも生き物にも


おわりに――私の愛も生き物を殺した


参考文献


もっと知りたい人のための読書リスト


生き物の「地雷」を踏まないために



「子どもが拾ってきた野鳥のヒナを保護する」「貴重なチョウを増やすために草を買ってきて植える」「川をきれいにするためにコイを放つ」――。こうした生き物を「大切にする」活動を目にしたり、実際にやってみたりしたことは誰しもあるのではないでしょうか。
 優しさや、善意が伝わってくるような活動ばかりです。リタイア後の地域貢献や、企業のCSRなどにもよさそうです。
 ですが、そういう活動は、ほぼ間違っていると言っていいでしょう。もしこうした活動に取り組んでいる人、これからやろうとしている人は、ちょっと立ち止まって下さい。そこには、危険な「地雷」がたくさん埋まっています。
 私は、貴重なチョウを増やしたいとか、野鳥を助けてあげたいという優しい気持ちを否定するつもりはありません。ただ、目の前の命を救ったことが、周囲の環境や生態系に影響を与え、思わぬ事態を引き起こす原因になる可能性があるのです。人間社会でも人づきあいのマナーを学ぶ必要があるのと同じように、生き物に対しても付き合いのマナーを知ることが必要なのです。
 では、冒頭の例をはじめ、生き物と付き合っていく上で、間違いやすいポイントは何か、「地雷」を避けるには、どんなことを考えたらいいのか。それがこの本の中身になります。
 ですから生き物の本といっても、この本は結構地味です。最近売れ筋の図鑑や事典のように、珍しくて派手な生き物や、最先端の生物学の研究、ユニークな研究者はほとんど出て来ません。ただし、大型哺乳類から絶滅が危惧される希少魚類、カブトムシ等まで様々な生き物を網羅、知られざる「生き物事件」について関係者の証言もまじえて紹介しています。「知らずにやってしまった」という人だけでなく、自分勝手な生き物「愛」をこじらせ、ダークサイドへ堕ちた人々のエピソードも登場します。
 読み進むうちに、聞きたかったのに聞けなかったこと、耳にしたことはあるけどよくわかっていなかったことに出会えるはずです。「外来種は悪者か?」という疑問に答えられますか? 大人気番組で認知度が上がった「池の水抜き」は本来、誰のため、何のためにしているのか知っていますか? 「生物多様性」はなぜ必要なのでしょうか?
 こうしたことをぜひ知って欲しいのは、生き物との付き合い、しかも私たちのごく身近なところでの生き物づきあいが、実は私たちの暮らしや社会、将来と密接に関わっている、と日々の取材から痛感するようになったからです。今は「知らなかった」でも大丈夫です。責めません。ですから、この本を開いてみて下さい。きっと考え方や見方が覆り、新たな発見もあるはずです。

(小坪遊 こつぼ・ゆう 朝日新聞科学医療部 記者)
波 2020年11月号より