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本の特送便 梅書房 > 渡辺治著作集 第9巻 運動が支える憲法の力 憲法をめぐる戦後史 その4
978-4-8451-1723-9 渡辺治著作集 第9巻 運動が支える憲法の力 憲法をめぐる戦後史 その4 新製品
渡辺治著作集 第9巻 運動が支える憲法の力 憲法をめぐる戦後史 その4
¥4,400   在庫有り
渡辺治/著

旬報社

2022年8月

社会/社会学


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【内容】

憲法史は憲法と違憲な現実との綱引きの歴史であった

憲法は死んでいない!

戦後憲法史を、日本国憲法の改変を志向してきた保守政権と、憲法の改変や政治制度の反憲法的改変に反対し憲法に沿った制度の実現をめざしてきた、労働運動や市民運動、野党との攻防の歴史として描く。

憲法9条の平和主義、25条の生存権、21条の表現の自由に焦点を合わせ、運動の力によって、憲法がいかに現実を規制し変革してきたかを明らかにする。


【目次】

刊行にあたって

解  説


Ⅰ 憲法の力

 1 憲法はどう生きてきたか――平和と自由を求めた四〇年
  一 憲法は空気のようにいつもあるものか?

  二 平和をめざした四〇年――憲法第九条の歴史

  三 表現の自由をめぐる四〇年――憲法第二一条の意味

  四 むすびにかえて――日本国憲法の現在

 2 憲法と「現実」の間

  一 今日の憲法見直し論の論拠

  二 憲法と「現実」との乖離という意味

  三 憲法第九条は「空洞化」したか?
   1 一九五〇―六〇年――規範と「現実」の乖離の進行
   2 一九六〇―八一年――憲法九条が「現実」を拘束した時代
   3 一九八〇―九〇年――規範と「現実]の綱引きの時代
   4 一九九〇年代――再び規範と「現実」の乖離が始まった時代

  四 小括――規範をいっそう力あらしめる道


附論1 日本の平和のためには憲法改正が必要なのか?
         ――新九条論批判

  一 戦争法廃止へ向けての共同と憲法問題
         ――新九条論派の台頭
 
  二 新九条論の主張
  
  三 新九条論の致命的欠陥
         ――改憲論の露払い


Ⅱ 憲法九条と二五条

 2 憲法9条と25条・その力と可能性
  はじめに――改憲をめぐる状況は新たな段階に入った

 第一章 憲法の力とはいったい?

   一 憲法にいくらすばらしいことが書いてあっても、黙っていては何の力にもならない
   二 憲法は現状を変えようと立ち上がるものには大きな武器となる
   三 立ち上がった成果は、立ち上がらなかった人々にも力をもつ

 第二章 日本国憲法はどんな国家をつくろうとしたか?
       ――日本国憲法に盛り込まれた三つの国家像

  一 占領権力は、なぜ憲法草案を直接起草するに至ったのか?

  二 憲法草案に込められた三つの国家像

  三 非武装平和国家の具体化

  四 自由主義国家と福祉国家の相剋


 第三章 憲法九条は戦後の日本をどう変えたか?

  一 九条を理想から力に変える契機となった戦後民主主義運動

  二 安保闘争が保守政治を変え、憲法を生き返らせた

  三 憲法九条がつくった「小国主義」の政治


 第四章 憲法二五条は日本社会をどう変えたか?

  一 憲法二五条は、たんなる理想を謳った「プログラム」だった

  二 朝日訴訟の運動が憲法二五条を力にした

  三 二五条を豊富化した革新自治体

  四 なぜ、二五条の一層の具体化は阻まれたのか?


 第五章 構造改革の新たな攻勢に運動はどう立ち向かったか?

  一 九〇年代経済グローバリゼーションと既存政治・社会の大改革

  二 軍事大国化と憲法九条に対する攻勢

  三 構造改革の攻撃が二五条を掘り崩した

  四 改憲を押し返した新しい運動――九条の会

  五 反貧困・構造改革反対の運動の盛り上がり

  六 改憲、構造改革の新たな戦略と新たな対抗


 第六章 憲法を力に未来をひらくために
         ――改憲から憲法を実現する社会へ

  一 改憲をめぐる新たな対峙の時代

  二 改憲と構造改革を阻み憲法の実現をめざす運動をもっと大きく

  三 政治を変えよう

  四 憲法は日本だけでは実現できない――アジアと手を組んで

 むすびにかえて

 あとがき
 

 附論2 朝日訴訟事件

  一 時代の背景
   1 生存権規定の登場
   2 生存権の出発
   3 朝日訴訟提起への道

  二 事実の概要
   1 裁判提起
   2 浅沼判決
   3 二審判決から上告へ

  三 判決要旨
   1 訴訟承継
   2 生存権の性格

  四 本事件が残した問題
   1 朝日訴訟のインパクト
   2 企業社会の成立、自民党政権と福祉国家の未成立
   3 新自由主義と運動、裁判


4 3・11が投げかけた課題――憲法で希む

 はじめに

  一 3・11とその復旧・復興が私たちの社会と政治に投げかけた課題
   1 新自由主義・構造改革政治で弱められた地域を津波が襲った
   2 民主党政権の構造改革型復旧・復興政策が復旧・復興の遅れをもたらした
   3 阪神淡路型復旧・復興の害悪と構造改革型復旧・復興の害悪の合成物
   4 原発事故は、大企業本位の開発型政治の害悪を露わにした

  二 3・11が提起する新たな福祉国家建設

  三 3・11は生存権にいかなる問題を提起したか
   1 新自由主義との対抗を正面に据えた生存権論の再構成
   2 社会保障の根拠としての一三条論の再検討

  四 生存権の位置づけの転回
   1 生存権の人権体系中での基軸性
   2 生存権実現の担い手の集団性・政治性

  生存権保障の復権と憲法学の課題――小括


Ⅲ 憲法史をめぐる断章

 5 日本国憲法運用史序説
  一 はじめに

  二 二つの憲法空洞化史観と憲法運用過程の実際
   1 憲法史の通説としての憲法空洞化論
   2 憲法空洞化史観の問題意識と憲法史像
   3 近年の憲法空洞化論
   4 憲法運用史の視角

  三 憲法起草者の国家像――近代的市民国家像と福祉国家像の対抗
   1 日本帝国主義の復活阻止の具体策としての憲法
   2 憲法起草者の国家構想――福祉国家か近代市民国家か
   3 市民的国家構想を支えた国内諸勢力の改革構想

  四 憲法運用史の分岐点
   1 憲法運用史の時期区分
   2 占領期の憲法運用
   3 復古主義の時代の憲法運用
   4 企業社会の形成と憲法運用の二面性
   5 一九九〇年代と憲法運用の新たな転換

 五 むすびにかえて


6 日本国憲法の五〇年

  はじめに――日本帝国主義の崩壊から新帝国主義まで

  一 日本国憲法の制定
   1 消極的だった日本政府の憲法改正構想
   2 GHQ憲法草案の特徴
      ――非武装平和主義と近代市民国家の構想
   3 憲法改正案審議の過程

  二 占領体制下の日本国憲法
         ――一九四七―五二年
   1 占領政策と憲法の矛盾
   2 明治憲法下の法制の清算の不十分性

  三 復古主義的憲法改正と戦後民主主義の対立の時代
        ――一九五二―六〇年
  1 復古的憲法改正論の台頭
  2 「逆コース」的政策の展開と戦後民主主義運動の形成

  四 憲法の定着と自由への新しい脅威の登場
        ――一九六〇―八〇年
   1 自民党の憲法政策の転換
   2 憲法の実質化の進展
   3 企業社会の形成にともなう憲法への新たな攻撃

  五 憲法体制の新たな修正の試みとその挫折の時代
       ――一九八〇―九〇年
   1 八〇年代における憲法政策の再転換
   2 八〇年代改憲の挫折

  六 日本の新帝国主義化と九〇年代改憲
   1 冷戦の崩壊と帝国主義化の新戦略
   2 九〇年代改憲の新たな特徴


 日本国憲法の五〇年関係年表


7 二つの憲法との格闘
  ――長谷川憲法史、憲法学史が明らかにした世界と残された課題

 はじめに――長谷川憲法学における憲法の歴史的研究の位置

  一 『昭和憲法史』の視角

  二 『憲法現代史』への挑戦――対米従属視座からの憲法史

  三 日本憲法学史研究はなぜ書かれなかったのか


 附論3 長谷川正安『憲法現代史(上・下)』を読む

  一 長谷川憲法研究の一総括

  二 「二つの法体系」という視角からの戦後憲法史

  三 長谷川憲法史の視角批判


解題・本巻収録の著書・論文の思い出


[本巻の検討対象]

戦後憲法史の視角

 本著作集第6巻から9巻までは、憲法関係の論稿を収録しているが、そのうち6巻から8巻が、保守支配層が追求してきた、憲法改正をめぐる攻防を扱った論稿であるのに対し、本巻には、戦後保守政治のもとで、日本国憲法が、政治や社会に対し果たしてきた役割を明らかにした論稿を収録している。6―8巻が、改憲という、いわば裏から見た憲法史であるのに対し、本巻所収の論稿は、正面からの憲法史の試みである。

 日本国憲法の歩みを振り返る際の筆者の視角は、以下のようなものである。すなわち、戦後憲法史を、日本国憲法の構想を実現することに一貫して消極的であり、何度かにわたり、その改変を志向してきた保守政権と、憲法の改変や政治制度の反憲法的改変に反対するだけでなく、憲法に沿った制度の実現をもめざしてきた、労働運動や市民運動、野党との攻防の歴史としてみる視角である。

 筆者がこういう視角を採ってきたのには一定の含意がある。最も大きいのは、戦後憲法史の流れについて、改憲に反対してきた護憲陣営や憲法学者の間でも有力な見解であったとみられる、「憲法空洞化史観」をとらないという含意である。筆者が「憲法空洞化史観」と呼ぶ見方は、戦後の憲法史を、その出発の当初から、日本を支配していたアメリカによって九条の改変を迫られ、また日本の支配層によって憲法の全面的改変の攻勢にあう中で、憲法が掲げた理念が次第に侵蝕されてきた歴史であるとみる見方である。とくに、この見方は、憲法九条の歴史をみる際に強く主張されてきた。

 確かに、憲法九条の歩みをとってみても、占領下から、占領権力により、九条を真っ向から蹂躙する再軍備が強要され、安保条約による全土への米軍基地と米軍配備がなされ、その後も安保条約改定、日米防衛協力のガイドライン、九〇年代以降の自衛隊の海外派兵の策動と解釈改変の動き、日米軍事同盟強化の動きによって、九条が改変の攻勢を受け続けてきたことは間違いない。

 しかし、その九条をみても、その歴史は支配層による一方的な九条改変の歴史ではなく、それに対抗する運動によりその企図が遅らされただけでなく、自衛隊の活動や防衛政策に無視できない憲法上の制約を加えてきた歴史でもある。

こうした支配の側と憲法を盾にとった運動側の攻防は、九条だけでなく、一四条の平等、二一条の表現の自由の領域でも二五条の生存権をめぐる領域でも看取されている。

 筆者は、こうした視角から、憲法史を検討してきた。本巻の副題を「運動が支えた憲法の力」としたのも、筆者のかかる思いによる。

しかし、率直にいって、こうした視点から戦後憲法史を叙述する試みは、未だできていない。本巻収録の諸論稿は、そうした戦後憲法史のデッサンにとどまっているのである。

本巻の構成

 本巻収録の論稿は三つのグループに分けられる。第Ⅰ部には、憲法がそれを武器に立ち上がった運動により現実の政治や社会を規制する力をもってきたことを論じた論稿を収録した。憲法の歩みを、運動により憲法が支配的制度を規制し憲法理念を一部実現させる力を発揮した歴史として書いた『憲法はどう生きてきたか』、‟憲法はひたすら蹂躙され憲法理念と現実は乖離するばかりだから憲法を現実に合わせろという改憲論を批判し憲法理念と「現実」との緊張関係の歴史であることを論じた「憲法と『現実』の間」などである。

 第Ⅱ部には、憲法九条と二五条に焦点を合わせて、支配層の政策と憲法理念の実現をめざす運動側の攻防を、ともに日本国憲法を象徴する条項でありながら、その実現に対する規制力という点では対照的な九条と二五条に焦点をあててより詳細に検討した。『憲法9条と25条・その力と可能性』などである。

 第Ⅲ部には、筆者の憲法史の視角に関わる論点を改めて検討した論稿「日本国憲法運用史序説」と、筆者の視角による戦後憲法史のデッサン「日本国憲法の五〇年」を収録した。加えて、第Ⅲ部には、明確な仮説に基づいて戦後憲法史を叙述した長谷川正安の憲法史の業績を検討し、憲法史の課題を探った二本の論考を収録した。