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本の特送便 梅書房 > アイダ・ターベル ロックフェラー帝国を倒した女性ジャーナリスト
9784845115433 アイダ・ターベル ロックフェラー帝国を倒した女性ジャーナリスト
アイダ・ターベル ロックフェラー帝国を倒した女性ジャーナリスト
¥3,080   在庫有り
古賀純一郎/著

旬報社
2018年6月
教養/ノンフィクション


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【内容】

ペンの力が、金権腐敗、不正にまみれていた米最大のトラスト・ロックフェラー帝国をズタズタに解体する原動力となったばかりか、自由放任という名の企業の横暴に揺さぶられていた“金ぴか時代”の米国の民主主義を立て直する役割を果たした時代があった。

調査報道のパイオニア、ターベルの生涯を描くノンフィクション。




【目次】

はじめに

 1 調査報道のパイオニア
 2 ロックフェラー帝国への挑戦
 3 100年前の調査報道-ターベルらが主導


第1章 アイダ・ターベルとは

 1 山師たちの石油地帯-幼年時代
 2 ゴーストタウン-中高時代
 3 成績抜群の編集長-大学時代
 4 社会問題に開眼-教師生活
 5 母の影響
 6 シャトーカ運動


第2章 フランス留学時代-ジャーナリストの素養を涵養

 1 叩きつけた辞表-抗議の留学
 2 ロラン夫人
 3 パリの日々
 4 本丸へ


第3章 ニューヨーク修業時代

 1 ナポレオン伝-ニューヨークの一八九〇年代
 2 リンカーン伝
 3 米国人脈
 4 米国の発見―ワシントン・マフィア


第4章 ロックフェラー帝国と激突

 1 ジョン・D・ロックフェラー
 2 スタンダード石油とは
 3 不朽の業績


第5章 地獄の番犬との邂逅

 1 爆弾投下
 2 ヘンリー・H・ロジャーズ
 3 ターベルの格闘


第6章 米革新主義時代とターベル

 1 “金ぴか時代”と革新主義
 2 ターベルとセオドア・ルーズベルト
 3 調査報道と革新主義運動


第7章 『スタンダード石油の歴史』の解剖

 1 ある産業の誕生
 2 スタンダード石油の興隆
 3 1872年の石油戦争
 4 汚れた同盟
 5 トラストの基礎を構築
 6 基礎の強化
 7 1878年の危機
 8 1880年の妥協
 9 東海岸へのパイプラインでの戦い
 10 殺すための値下げ
 11 リベート戦争
 12 バッファロー事件
 13 スタンダード石油と政治
 14 トラストの解体
 15 独立のための現代の戦争
 16 石油の値段
 17 スタンダード石油の正統的な偉大さ
 18 結論


第8章 ロックフェラー帝国の解体

 1 マクルアーズ誌を退社
 2 受難の調査報道
 3 トラスト征伐に着手
 4 アメリカン誌へ移籍
 5 政財界の大物に取材


おわりに

 1 聖地タイタスビルを訪問
 2 マンハッタン・ブロードウェイ26番地
 3 マックレイカーは死語なのか
 4 メディアを救う調査報道


【おすすめ】

「はじめに」により

19世紀後半から1940年代にかけて米国で活躍した女性ジャーナリストIda Minerva Tarbell(アイダ・ミネルバ・ターベル)をご存知だろうか。第26代セオドア・ルーズベルト大統領の目指した社会改革「変革主義運動(progressivism)」と歩調を合わせ、金権腐敗が蔓延する当時の米資本主義を根底から変えた調査報道(investigative reporting)のパイオニアとして米国では良く知られている。

米国では、児童向けに書かれたターベル伝も少なくない。2017年には、英国でやはり児童向けに『The Muckrakers-Ida Tarbell takes on big business(マックレイカー-大企業と格闘したアイダ・ターベル)』が出版された。100年前に出版されたターベルの著書は、今なお入手可能である。

特に、金字塔といわれる当時の米国石市場をほぼ独占した総帥ジョン・D・ロックフェラー率いる巨大トラスト(企業合同)スタンダード石油の犯罪的な経営手法を緻密、かつ詳細に分析し、解体へ追い込んだ。雑誌に連載された著書『The History of the Standard Oil Company(スタンダード石油の歴史)』の評価は、極めて高い。米ニューヨーク・タイムズ紙が20世紀を代表するジャーナリズム関連の本100冊のランキングの五位に選んだほどで、時代を超えて読み継がれる優れた作品である。

 これによって浮き彫りとなった倫理なきロックフェラー帝国の悪質で違法性の濃い経営手法が白日の下にさらされ、反トラストの世論は一段と高まった。札束攻勢で連邦、州議会や政治家らを操る強引な手法にも焦点が集まり、「米民主主義が脅かされている」との危機感が充満、政界からも改革の機運が盛り上がる。トラストの規制は、喫緊の課題として浮上し、世直しのための社会改革運動として発展した。

ターベルの記事は、所属していた社会派の総合誌マクルアーズ誌に約2年間にわたって連載された。内容は、辛辣を極めた。市場独占を目指す過程でスタンダード石油が取ってきたライバル企業潰しの全容、言わば、トラストの闇が表沙汰になったのである。 

あまりにも悪辣で、倫理観に欠ける反社会的な企業経営の内情の暴露は、度肝を抜かれる空前絶後の内容だったから政財界のみならず一般庶民は仰天した。

それまでも散発的な非難がロックフェラーに対して浴びせられていた。市場メカニズムを意図的に捻じ曲げ、背後で胡散臭いことを進めているのではないか、システムを乱用しているのではとの憶測が、米国社会に拡がっていた。だが、スタンダード石油に対する摘発に、当局は及び腰で、具体的な内容は分からずにいたのである。

ターベルの連載によってトラストの王者の市場制覇に向けた冷酷なリベート戦術やスパイ行為、政界に対する献金攻勢などの具体的な内容が明らかになり、ロックフェラーに対する一般の非難や罵詈雑言は、ピークに達した。

当時の米国は、何でもありの初期資本主義の“金ぴか時代”。汚職、詐欺、買収、脅迫、裏切り、スパイ行為、共同謀議など金権腐敗に蝕まれた米国の社会を根底から改革する革新主義運動が始まる画期となった。

社会の不正を糾弾するターベルらマクルアーズ誌編集部のジャーナリストを先陣に、これに歩調を合わせた当時のセオドア・ルーズベルト大統領が、拝金主義にまみれたトラスト・大企業の規制に着手。自由を過度に優先した夜警国家型の“小さな政府”から強欲主義の高じた大企業の規制を目指すいわば、近代的で健全な市民社会へ移行する一大転機となった。自由放任に名を借りたビッグ・ビジネスの横暴に歯止めを掛けることで、腐敗した民主主義の立て直しを図ったのである。

利益の確保のため販売価格、生産計画、生産数量などで企業が協定を結び、価格を安定させることで利益増大を目指すカルテルに対し、株式の持ち合いや持ち株会社などを通じて同種の企業を傘下に収め、経営を一体化させ、より拘束力を強めたのがトラストである。顧問弁護士の指導の下、同制度を綿密に研究し、息を吹き込んだのがロックフェラーで、トラストは、結束力の固い高度な独占形態として米国で発展した。

ルーズベルトは、トラストを規制する部局を大統領就任後に創設。ターベルの情報などをベースにビッグ・ビジネスの厳格な監視を開始、同訴追に着手した。在任中に、スタンダード石油をはじめとする40以上の同訴訟を提起、ルーズベルトは、トラスト・バスター(征伐者)との異名を取ることになる。

世界的規模の慈善事業を営む組織として知名度を誇るロックフェラー財団は今でこそ好感度が高い。だが、100年以上前のスタンダード石油の総帥ロックフェラーは、米国ばかりか世界の石油市場の支配をもくろむ“悪の権化”とみなされていた。

不公正な鉄道運賃の設定などを巡り、ロックフェラーと連邦、州政府や独立系業者との間の係争が各地で提起された。ターベルの一連の連載記事もあって、裁判は全米の注目を集めた。そのヤマ場となったのが、ルーズベルトが反トラスト法違反で訴追した裁判で、米最高裁は、違法性を認め、一九一一年五月、ロックフェラー帝国の解体を命ずる歴史的な判決を下した。

これによって、米石油市場をほぼ独占し、値段を思うままに操り、世界最大の富豪へ上り詰めたロックフェラーの打ち出の小槌となっていたスタンダード石油は、約40の会社への分割が決まった。トラストの王者の市場独占に鉄槌が下されたのである。ターベルの調査報道が、ロックフェラー帝国を葬り去ったといえよう。